2020年10月11日

こけしのひと 〜にず 田宮智美歌集〜

「にず 田宮智美歌集」を買った。
そう言えば、塔短歌会の人……「3299日目 東日本大震災から九年を詠む」にも田宮智美さんの短歌はあったことに今更ながら気がつく。
震災とか恋人との別れとか家族への思いとか仕事とかひとり暮らしの生活とかいろんな短歌があるがやはり、こけしである。

こけしこけしこけしが欲しい胴をにぎり頭をなでて可愛がりたい
遠刈田こけしの眼こそ良けれ見つめられれば笑みたくならぬ
石巻こけしに波は描かれて帰りの電車へ共に乗りたり
誰からも必要とされぬ手で触れる弥路郎こけしのろくろ模様よ
薄葉紙、箱、包装紙、ビニールの袋の順にくるまるこけし

作者のこけしへ寄せる思いに、眼差しにおおう……となる。
「こけしの眼」という言葉に、ハッとする。
細い目で微かに笑みを浮かべるこけし。静かにこちらを見て微笑むこけしの姿が、見たことのない作者に重なる。
「にず」は全体的に、静かで暗い感じの歌が目につく。重すぎるように思えることを、淡々とこけしの眼で見据えて歌っているように思う。
東日本大震災を詠んだ歌で一番ぐっときたのは、この短歌。

この部屋はわたしの部屋か戸を開けてなみだも出ない三月十二日

地震から一夜明けた翌日帰宅した、戸を開けて自分の部屋かと驚くような室内の惨状だったのだろう。
前日の夜は帰れず、職場か避難所かで余震で不安な夜を過ごしたのだろう。
自分の部屋に戻れば安全だ、前日の衝撃も帰宅すれば平穏な日常が戻ると願っていたのかもしれない。
でも、違った。突きつけられた現実になみだも出なかっただろう、と思う。
自分もそうだったが、あの日帰宅困難者になって自宅以外の場所で不安な夜を過ごしたことを思い出し共感する人も多い歌ではないか。
震災後の時間の経過を、白い壁紙に託して詠んだ歌も印象的だった。

そのままにしておく白い壁紙のひび割れ 時にそっと触れおり
ひび割れた白い壁紙この部屋で君にハンバ−グ焼く夕べなり
今死ねば誰がわたしを泣くだろう白い壁紙ひび割れたまま

白い壁紙に出来たひび割れを、作者は修理しようとしない。
忘れて生きていくと決意した、それでも白い壁紙のひび割れは残されたまま。
タイトルの「にず」、何だろうと思ったら虹のことだった。

虹、虹と幾たび言えど通じぬを「にず」でようやく伝わる、祖母に

暗い歌が目につくけれど、読んだ側は暗い気持ちにならずほんのりあたたかい気持ちが残る歌集だった。




posted by 庭鳥 at 18:09| 東京 ☁| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月10日のつぶやき
























posted by 庭鳥 at 00:01| 東京 ☔| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする